"KSB"(Kochi Startup BASE)のジャーナル

こうちアントレプレナーナイト 連続セミナー #2
独自性とサービス設計×人の魅力で選ばれる宿に

「こうちアントレプレナーナイト」は、高知県内で活躍する先輩起業家を招き、起業までの道のりや苦労話、起業するにあたっての心得など、実体験をもとに紹介してもらう、対話形式のセミナーです。
また、参加者が考えているアイデアがある場合は発表し、ゲストと参加者が一緒に、そのアイデアを磨き上げる参加型のプログラムとしても機能させていきます。

第2回目の講師は、篠田善典さん(TOMARIGI HOSTEL代表)。
『独自性とサービス設計×人の魅力で選ばれる宿に』と題して、起業に至るまでのお話やゲストハウスの現状、そして、今後の構想についてお話いただきました。

 

篠田善典さん(TOMARIGI HOSTEL 代表)

<プロフィール>
1987年生まれ。高知県出身。関西大学文学部卒業。
47都道府県に訪れ、アジアを中心にバックパッカーを経験。Bayer、ペンション支配人、楽天を経て2015年に高知にUターン。
2018年に高知市内の菜園場商店街でTOMARIGIHOSTELを開業。
1年で1000人以上の宿泊者が来客。2018年 booking.com クチコミアワードを受賞。
1年間に約100本のイベントも実施。
2019年は“まちやどホステル”を目指し活動しており、企業ビジネスコンテストで、審査員特別賞を受賞。「菜園場をここにしかないよさこい競演場に」をテーマに活動したりと、宿という「場」の新しい可能性にチャレンジし続けている。

 

嫌いだった高知へ帰ってきた理由
「高知が嫌いだった」という話から始まった篠田さんの自己紹介。都会に行きたくて大阪の大学へ進学し、製薬会社に就職が決まりました。お金と安定した生活を求めて選んだ会社でしたが、就職先決定後、4回生のときの旅行が大きな影響を与えることになります。屋久島のゲストハウスで出会った様々な人たちの生き方が、篠田さんの価値観を変えました。
卒業後、製薬会社で働きましたが退職し、もう一度旅に出ることにしました。自分のことが分からない状態で訪れた外国。様々な人の価値観に触れ、単純に生きているだけで幸せなんだ、と感じました。銃声が当たり前に聞こえて、子供を使った商売をしないと生きていけない国もある外国に比べて、日本は平和でやりたいことが出来る。その旅を経て、たどり着いた篠田さんのやりたいことは「宿」でした。縁あって那須のペンションを運営し、自分のやりたいことに近いことをしていた時期もありましたが、「何か違うな」という違和感を抱きます。そのとき「高知で宿をやりたい」と思い戻ることに。大手の旅行会社で高知を拠点に働き、現在に至ります。

 

とまり木ホステルについて
篠田さんの運営する『とまり木ホステル(以下、とまり木)』は菜園場商店街という場所にあります。ここは閑散としている商店街で、営業している店舗は20店舗の無いほど。最近は北側にリノベーションされた施設や新しくできたお店も多く、北と南で雰囲気が異なっているそうです。物件との出会いは『とまり木』を今の場所にする、と決める半年前のこと。つてが無く、地道に物件探しをしている頃、今の場所にたどり着きました。当時は、物件の3階に人が住んでいたのですが、たまたまその方が出ることになり、その場所で宿ができるように。昔、1階がブティック、2階と3階が和室だった物件の一部をリノベーションし、一部を残しました。
本来、10ベッド入るところを8ベッドしか入れていないドミトリーは評判が良いそうです。詰め込むと、売り上げの最大化はできますが「お客さんの評価が下がってしまう」と考えているため、このスタイルで営業することに決めました。
『とまり木』のスタッフは6名。立ち上げから関わっている方、学生のインターンシップ、カフェ専門の方、ヘルパーの方、出ていったけど今も手伝いに来てくれる人など、色んなメンバーで楽しく運営しています。

 

 

お客様に丁寧に伝える
ゲストハウスは、最近増えていて利用者は若者が多く、盛り上がっているというイメージを世間一般で持たれていますが、『とまり木』は朝まで飲む宿ではありません。とは言っても、交流がゼロのホテルとも異なります。お客様の中には、気の合う人と交流したい方、読書などをしたい方などそれぞれですが、自分の時間を確保したい方を優先しています。その理由は、飲んで騒ぐだけの方は『とまり木』の雰囲気に合わないため、ミスマッチを起こしてしまうから。そうならないために、宿泊予約サイトでは、宿のコンセプトを理解してもらうための文面を掲載しました。本来、宿側がお客さんを選ぶことはいけないことかもしれませんが、宿の色を伝えないとお客様も不幸にしてしまう、という、篠田さんの想いがありました。
こうした積み重ねにより、年間の宿泊者数は1,000人以上。7割が県外、2割がインバウンド、残り1割が県内という構成です。今年はインバウンド利用が増加していることもあり、どの業種においても外国人は無視できなくなっているのが現状です。

 

アワード受賞とイベント開催
こうしたオープン時からの色々な取り組みの積み重ねによって、ネットでの口コミは良く、「2018年booking.comクチコミアワード」を受賞しました。周りのゲストハウスに比べると『とまり木』は高めの単価ですが、それでもお客様は来てくれていました。しかし、料金設定は難しい部分もあり、その都度コントロールしながら設定しています。
『とまり木』では昨年、1年間に100本イベントを実施。最近は、月に3本ほどになりましたが、イベントをすることで今までになかった広がりが増えることや、『とまり木』のことを知ってもらえるという良さがあります。ただ、1人しか参加者がいないものもあり、集客の難しさも学びました。
今は『とまり木』を飛び出して、商店街や他の地域でのイベントも行っています。意外かもしれませんが、イベントと宿泊客のミックスは難しく、親和性が高いようでありません。泊まっているから参加するというお客様は少なく、イベント目的では宿泊に来ないのです。

 

ゲストハウスの資金繰り
『とまり木』のオープン時には、高知市内に複数のゲストハウスがありましたが、それぞれ特色があり、差別化できていました。その後、ゲストハウスの波が来て、1年内に劇的に増加。マーケットが1年で変わるようになりました。こうした状況下では、ますます色を出していくことが求められます。
全国的なゲストハウスのピークは2010年の辺り。その頃のピークを感じていたときに実現できていれば、と思ったそうです。このこともあり、スピード感の重要性を意識するようになりました。ゲストハウスは今、変革期を迎えています。
次に話してくれたのは「ゲストハウスの資金繰り」について。福岡県にあるゲストハウスを例に実体験も交えながら話してくれました。オープン当初、思った以上にお金がかかり、売り上げが良くてもお金が全然増えません。半年経って、ようやく資金が増加したことを実感しました。少し安心して自分のお金を使えるようになったとき、閑散期が訪れます。せっかくストックしたものが12月~2月の冬に目減りした記憶があり、貯えをした方が良いと感じました。

 

自分のスタンスはどちらか
宿泊業で大きい要素はふたつ。人件費と家賃です。宿は基本的に宿泊部門の売り上げが繁忙期と閑散期で大きく変わります。閑散期は頑張っても閑散期。それよりは繁忙期で伸ばす方が、最終的に振れ幅が少なく安定しました。また、飲食も無視できません。宿と飲食で経営しているところは、飲食で利益が出ています。黒字でも食べていけない宿がある中、小さいゲストハウスの『とまり木』をなぜ選んでもらっているのか、を常に考えています。
人を雇わなければゆっくり生活していくこともできますが、多方面に活動を広げていくのは難しいし、宿に付きっきりにもなります。1人でも経営できるし、生活もできますが、それが自分の望んでいる世界なのか、自分がどういうスタンスなのかを意識していないと、大変なことになります。宿は人を増やすことはできても、部屋を増やすことはできないからです。

 

大切にしていること
宿泊施設が多様化する中、「宿×〇〇」が今後増えていくことを意識しています。大手の宿泊施設も形態を変化させている中、行っているのはポジショニングマップを作ること。『とまり木』が目指すのは独自性の高いところ。路頭に迷ったときに自分はどこにいるのかを確かめるためです。
篠田さんにとって大切なことは3つ。1つ目は、想い。想いだけで起業をすることはだめだと思っていますが、想いは大事だと話します。「宿をやりたい」と思っているからこそ、簡単に諦めませんでした。その中で辛さを感じなかったのは、やりたいことをやっていたから。2つ目は、広がる実感とつながる実感。『とまり木』を始めて、今まで出会わなかった層の人たちと出会ったり、話をしたりする機会が増えました。応援してくれたり、助けてくれたり、仕事をいただいたり、と、自分自身のやりがいにもなっています。3つ目は、とまり木で働きたい、と言ってくれる人がいること。まだ応えられていませんが、人手不足の中、そう言ってくれる人たちがいることは幸せなことだ、と感じています。

 

一歩先の展開を構想
最後に『とまり木』の今後について話してくれました。「寝るだけの場所から、旅をより充実させるホステルへ」というコンセプトのもと、「宿=寝る」のイメージを払拭し、もう一歩先をいきたいと構想しています。現在、高知に徹底的にこだわった材料のものをカフェで提供し、バーでは、ローカルな高知の人というのを全面に押し出しています。
これからは、「まちやど」に取り組む予定です。街を歩く機会を創出し、街に触れる、高知を知れるような宿にしたい、と考えています。高知の空き家や空き店舗を活用して、街まるごとを宿にして、街全部が『とまり木』になるような仕組みです。
2020年には、新しいイベントとして、まちガイドを計画。外国人からの問い合わせも多く、街を見ることで、ローカルを伝えられる、このことも差別化につながると考えています。また、InstagramではSNSマガジンで魅せ方の工夫をしています。ただのコンテンツではなく、宿の自己表現として行っています。こうしたことを続けることで大手に勝てる要素にもなり得る、と話してくれました。

 

 

対話の時間
今回は篠田さんを囲んで、講義を聞いてもっと知りたいことや質問などを気軽に話せる場を設定しました。

 

 

多く出た話題はやはりゲストハウスについて。「ゲストハウス未経験で、泊まることに躊躇してしまう」といったものから、「男女が同じ部屋で泊まることは問題がないか」や、「見知らぬ人と泊まることでトラブルが起こったりすることはないか?ちょっと怖さを感じる」というようなものまで普段なら、なかなか聞けないことを質問される方が多かったように感じました。

 

チェックアウト
最後は、篠田さんの講義を聞いて、今後のご自身の活動にどう活かしたいかを共有しました。
参加者から一番聞かれたのは、とまり木のある「菜園場商店街に行ってみます」という声。これまで車で通ったりはしていたが、実際に町中に足を運ぶことはなかった、という方もいました。また、将来的にゲストハウスをやってみたいと考えている方からは、ご自身の想いを交えながら「とても参考になった」という感想をいただきました。

 

 

総括
篠田さんのお話の中で多く聞かれたのは「色を出すこと」と「自己表現すること」。実際に1年半、ゲストハウスの運営をした中で得られた経験やノウハウは、同業種だけでなく、異業種の人たちにとっても、ヒントや気づきが多かったように思いました。
競合店とどのように差別化し、街と共存していくか、そこには沢山の工夫と努力、そして信頼する仲間たちと築き上げてきたものが確実にあることを感じられるエピソードが沢山ありました。

(レポート:上野 伊代)

 

 

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