「好き」を仕事にする秘訣-移住女子の起業ヒストリー
~こうち女性起業家応援プロジェクト連続セミナー #4
「こうち女性起業家応援プロジェクト」は、起業や育児休業後の職場復帰や再就職、移住後のキャリアチェンジ、そして、キャリアアップを目指す女性を幅広く支援したいという想いから、各分野で活躍する起業家をゲストに迎えたセミナーや、生活目線から考える事業アイデアの創造に向けた学びの機会を提供し、高知の女性が自分事として取り組むことのできる新たなチャレンジを後押しすることを目指し、開催しております。
第四回目は井川愛さん(合同会社Yaika factory 代表)。
『「好き」を仕事にする秘訣-移住女子の起業ストーリー』と題して、高知に移住する経緯や、移住後の暮らし、チャレンジ、そして、今、についてお話いただきました。
井川 愛 氏(合同会社 Yaika factory 代表)
京都生まれ千葉育ち。大妻短期大学国文科を卒業後、就職活動を放棄し半年間カナダへ。帰国後、販売職、OL、イベント運営など様々な職を経験。2004年から司会事務所に所属し、司会業と研修講師を10年間務める。
2011年に結婚。2014年司会業から離職し、主婦業に専念。その後、大好きな猫のために「港のネコとおばあちゃんプロジェクトを立ち上げ、2016年10月、猫のおやつ作りで事業化を目指し、単身高知に移住。
「第2回高知を盛り上げるビジネスプランコンテスト」で最優秀賞受賞。地域おこし協力隊として1年半活動し、2018年2月に合同会社Yaika factory設立。現在、猫のおやつの製造販売を行っている。
暗黒時代の始まり
自らの学生時代を暗黒時代と語る井川さん。その始まりは5歳の時、父親が借金を肩代わりし、その借金取りから逃げるために夜逃げをしたところから始まります。
夜逃げをしてから数年は引っ越しを繰り返し、友達もできず、話し相手は、動物のぬいぐるみや飼っていた犬だったそう。
幼いころは当たり前だと感じていた生活も、小学校高学年くらいになって物心がついてくると、自分が貧乏で不幸な生活をしていると思うことが多くなりました。子どもながらにやりたいことがあっても、「貧乏」を言い訳に、やりたいことを素直に言えない、ひねくれた子になってしまったといいます。
年を重ねるごとにマイナス思考に陥り、自分自身を表現することが苦手になってしまった井川さん。やりたいこともなく迎えた就職活動では、机に向かってひたすらに作業する事務の仕事は自分にはできない、と2社目で諦めてしまいました。そして、選んだのは海外へ行くこと。CAになりたいと理由をつけ、半年の間カナダで過ごしました。
しかし、お金も無くなり、日本に帰ってくると、就職氷河期真っ只中。仕事が見つからず、飲食系からお見合いパーティーの司会まで、本当に様々なアルバイトをしたといいます。長く続く仕事がなく思い悩んだ末、今までにやってきた中で、楽しく、カッコいいと感じた、結婚式の司会をしよう!と井川さんは決めました。
いつもの不幸を乗り越える
司会の勉強したい!と、アナウンサー事務所に就職しようと活動しますが、すべて落ちてしまいました。
-「やっぱり私は不幸な子だからうまくいかないんだ」
普段ならそう考えて諦めていた井川さんですが、この時は違いました。求人をしていない会社に電話をして、社長に直談判をした結果、司会者として育ててもらえることになりました。
まさか、採用してもらえると思っていなくて、「ほんのちょっと勇気を出すだけで、望みが叶うんだ!」と衝撃を感じたそう。
働きだしてからも、毎日家に帰ると、その日の仕事を振り返って涙を流すほど、この仕事ができることが嬉しく、いつも熱心に働いていため、あっという間に責任のある職を任せてもらえるようになりました。
人生の転機
しかし、10年間務めた大好きな会社を38歳で辞めることを決意。家庭を持ったこと、完璧を求めて仕事をし続けてきたストレスから体調を崩したことなどが原因でした。辞めてから、立て続けに、一年に3人もの大切な人を亡くすというショッキングな出来事が起こりました。
そして39歳になったとき、大切な会社との別れや大切な人たちの死を受けて、「これからの人生、私はどうやって生きる?」そんな根源的な問いが井川さんの中に生まれたといいます。「それは自分自身が選ばなければいけないな」、そう思った井川さんは今までにやったことの無いことをしようと思い立ちます。
それからというもの、365日散歩をして、そこで見えたものを投稿したり、100人行脚と題して、昔の友人から話題の人まで、気になった人にとにかく会いに行ったりと、積極的に行動します。その結果、もやもやとたくさんあった「自分のやりたいこと」が、「海のそばに住みたい」、「猫が好き」、「年をとっても活躍できる自分の居場所を作りたい」という3つに絞ることができました。
やいかとの出会い
3つのうちの1つ、海のそばに住みたい、それを叶えるために井川さんは、東京で行われていた移住フェアに足を運びます。そこで訪れた高知県のブースで、高知の人の明るくてちょっとゆるい人柄に触れ、中土佐町矢井賀(やいか)の存在を知り、試しに旅行に行ってみることにしました。
そして実際に矢井賀の海を訪れ、井川さんはその美しさに衝撃を受けます。
「私、多分ここに住むな、ここで事業をするな」、そう直感し、その日のうちに役場の人に家を探しておいてほしいと頼みました。
中土佐町での生活
移住することを決めた井川さんですが、はじめは旦那さんに反対されたといいます。何度も何度も自分のやりたいことを説明し、話し合いを重ね、移住の2ヶ月前にようやく理解を得られました。
そして、役場の方に紹介されたビジネスコンテストに「港のネコとおばあちゃんプロジェクト」で応募し、移住2日目にして見事優勝。地域おこし協力隊として働きながらいよいよ高知での生活が始まりました。
しかし、地域おこし協力隊着任初日から区長さんやおばあちゃんたちからは「このまちをネコだらけにする気か!」と怒られてしまいます。井川さんは地域の人の誤解を解くため、お手紙を書いては回覧板で回します。他にも製造場所がなくプレハブをトラックで運んできたり、作ってもなかなか売れなかったり、と困難は数えきれないほど起こります。
それでも井川さんは「本当にやりたいことをやっているから面白い」、と語ります。
誤解から始まった地域の方との関係も今では井川さんを支える大切な仲間。以前は完璧主義で人を頼れなかった井川さんも、地域のおばあちゃんたちや漁師さんたちと協力し、できないことをオープンにしたことで、教えてくれたり、仲間意識が生まれたりすることに気づきました。
失敗した時も、ネタとしてコラムに書こうと前向きに捉え、支えてくれる「人」がいるから事業を続けることができている、と井川さんは笑顔で話してくれました。
これまでの人生で学んだこと
そして最後に、井川さんが「好き」を仕事にできたプロセスを語ります。
まず1つ目は「好き」をみつけること。
「好き」を仕事にするには「思い」だけではなくコストや時間、労力をどれだけかけたかという「思い入れ」が必要で、井川さんの場合は、愛猫のオルカ君が当てはまったといいます。
2つ目は「好き」にプラスすること。
井川さんは、「好き」という気持ちのほかに、どうして猫の殺処分が無くならないのか、どうして歳をとるのが幸せなことになる社会じゃないのか、といった自身のモヤモヤした気持ち、そして、ネコ好き以外の人も幸せにできる事業がしたい!という思いを足していきました。
そして3つ目は「好き」への階段を作ること。
自分の理想の状態を絵にかき、そこから逆算する方法で、絵などの言語以外で形にすることにより、今の自分がするべきことを見つけ出します。
今日のイベントのために、4年ほど前に自分が作ったものを久しぶりに見たそうですが、叶っていることが多く、井川さん自身にも鳥肌が立つような発見があったようです。
そして、最後に井川さんは、
-「今日の積み重ねが未来を作る」
-「だから、今日一日を笑顔で終われる選択をする」
-「そうすれば、好きなことでいっぱいになる生活ができるのではないか」
と話してくださいました。
ライフヒストリーや気づきのシェア
次に参加者3人1組のグループをつくり、自身のライフヒストリーや、井川さんのお話を通して得られた気づきを共有する対話ワークを行いました。
参加者それぞれが今までの人生をグラフに書き起こし、自分がどんな人生を歩んできて、そこで得た気づきや教訓を紹介し合いました。今回は井川さんのお話を通じて自分の「思い入れ」のあるものは何か、を考えながら話をしている方も多くいました。
チェックアウト
最後は、チェックアウトとして、一人ひとり今日の感想を話しました。
参加者からは、笑顔が本当に素敵だった。井川さんの話を聞いて、自分が出来ないと思っていたことに対して前向きに捉えられるようになった。といった感想や、好きなことをやっているはずなのにモチベーションが下がってしまうときにどうしたらよいか、という質問も挙がりました。井川さんは、丁寧に感想に応ええくださったり、「嫌になることも多いが、地域の漁師さんやおばあちゃんなどの仲間が背中をおしてくれる」、とアドバイスをしてくださったり、しました。
総括
「これまでのことは全部経験になっていたなと思った」
そうおっしゃる井川さんのお話一つ一つに、参加者の方は共感したり、発見したり、考えたりしていたように思います。女性ならではの悩みや強み、そういった部分も共有できた回になりました。
井川さんと参加者自身の人生を振り返りながら、自分の「好き」を仕事にするためのヒントを見つける。そんな素敵で前向きな気持ちになれるイベントになったと思います。
(レポート:檜山諒 )
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